22歳、男。
凄い寝癖をつけて歩いてる。
いかにもぼんくらって感じがする。
ソファーに寝っ転がってダラダラしはじめた。
なんてだらしないんだ。
なんとなくダラダラしているのか、精一杯ダラダラしているのか。
それは分からないが、なんだか楽しそうだ。
少しノペーっとした人生を歩んできたんだって。
大きく外れることも、これと言った有頂天もなかったってさ。
そんな彼ももう卒業。学生生活も終わりだってよ。
早いもんだねぇ。
大したドラマもなかったけど、安泰で楽しかったみたい。
学生を16年もやったらしい。
学びに生きると書いての学生を16年やったのに、都道府県パズルを完成させる自信もないし、誕生月である1月の英語のスペルもあやふやなままだ。あと火曜日のスペルも危うい。
何を知ってるんだろ?
墾田永年私財法の語感の良さと、三角定規で測れない物の多さだけは知ってるかもしれない。
iPhoneの高さすら測れないなんて。。。
他は何だろう。
語感がいい言葉だけ覚えてるなぁ。
でも、それがどういう内容だったかは思い出せない。
表層の音しか覚えてないのか。
うむうむ情けない。
勉強に熱中できればまた違う人生だったのかもしないけど、かなりダラダラしてたけど、それなりに楽しかったんじゃないかなぁ?
音楽もたくさん聞けて、映画もたくさん観れたかなぁ。
そんなモラトリアムも、もう終わっちゃうねぇ。
生き急ごうとした割にはダラダラしてたねぇ。
ダラダラがDNAに刻まれてるのかねぇ、それとも大脳に埋め込まれてるのかねぇ。
幼稚園の頃から猫背を怒られてたけど、結局治んなかったねぇ。
フォルムそのものが、なんだかダラダラしてるんだねぇ。
バナナの流線に憧れてたのかもねぇ。
もう2月も終わるねぇ。最後の3月が来るねぇ。
最後のライブがあるんだよねぇ。。
楽しまなきゃいけないよねぇ。
楽しみだねぇ。。。
ピンポーン
僕「おっ、誰だろう」
「ちわっーす!どうもぉ〜!虚無でぇ〜す!!」
僕「(虚無!?)」
高校生Youtuberの挨拶のようなテンションに驚く僕。
凄いイントネーション。
虚無って誰だろ?
そんな奴は知り合いにいない
なんの用だろうか?
姿が写っていないぞ。
僕「はい!どちら様でしょうか!?」
虚無「虚無でおなじみの虚無でぇ〜す!虚無を持ってきましたぁ!入れてください!!」
僕「えっ?」
何だこの人。
怖い。
姿が見えない。
よく中学の友達がやってたけど、死角に隠れてるのか?
僕「あのぉ〜なんの用でしょうか?」
虚無「だから虚無でぇ〜す!入れてくださーい!!」
僕「すいません。。家を間違えてると思います!僕、虚無って人知らないです!!」
なんだか怖い。嫌な予感がする。
みぞおちがスーッと落ちるような感じ。
虚無「いや、知ってるはずです!どうもぉ!虚無でぇ〜す!!」
僕「知らないです!!!!隠れてると思うんですけど、イタズラやめてください!怖いです!!」
虚無「ちゃんとインターホンの前に立ってますよ!っていうか人じゃないでぇす!!」
僕「!?」
虚無「人じゃなくて概念でぇ〜す!実体がないから見えないでぇ〜す!!とにかく入れてくださ〜い!!」
なるほど概念だったか。
そいつは知ってる。でも一体、何の用だ。
僕「概念か!なるほど!!でも虚無さんが一体何の用でしょうか!?」
虚無「さん付けは止めて〜!同い年だよ〜!タメ口で話そうよ!!とにかく入れてくれ〜!」
僕「そうだよね!ごめんね!!」
概念のお客さんなんて、滅多にあることじゃない。
虚無っていうのが気になるけど、とにかく入れてみようか。
僕「待ってて!!」
ドアを開けてみる
ガチャッ
何も見えないが、そこには虚無がいる。
虚無「久しぶり!!元気にしてた〜!?」
何もない場所から声がする。
僕「会ったことあったけ?まぁ元気だったよ!とりあえず、くつろいでってよ!」
虚無「何度も会ってるよ!忘れちゃったのかい!?」
僕「そうだっけな?」
リビングに案内する僕。虚無が動くと、なんとなく空気が動くのが分かる。
何の臭いもしない。何の温度も感じない。これが概念か。
ソファーに座る僕。虚無は僕の隣に座った。
虚無はどこを見てるんだろう?
僕の方を見てるのかな?そもそも目なんかないのかな?
僕「突然でびっくりしたよ!何の用なの〜?」
虚無「まぁ、いろいろあってさー。やんなくちゃいけない事があるんだけど。」
虚無「とりあえず、思い出話でもしようよ。」
僕「うん。」
概念との会話。
相手が虚無なだけに、虚無についての思い出話ばかりになった。
俗に言う虚無トークである。
虚無「あの子にそれ言われた時、本当に虚無ってたでしょ〜!」
僕「いや、もう本当に虚無ってた!思い出したくもないわ!笑」
22年の中で生じた数々の虚無エピソード。
平凡な人生だったけど、振り返ればそれなりにあるもんだな。
生きてればそれなりに、落ち込むこともあるんだなぁ。
でもまぁ、それでも何か楽しかったなぁ。
僕「いやぁ、虚無ちゃんも結構虚無ってんねぇ!」
虚無「なんたって虚無ですから!」
僕と虚無「HAHAHAHAHAHA!!」
僕「」
僕「それでさぁ、今日はなんで来たんだっけ。」
虚無「実はね、虚無を持ってきたんだ。」
僕「やっぱそうだよねぇ。。。。虚無かぁ。。。。。どんなの?」
虚無「君が今楽しみにしている事が全部消える、、、」
僕「 」
虚無「本当にすまない。。。今、スーパーバイキンウィルスが流行ってるだろ。。。
ほら、あの耳たぶが固くなって、一生プルプルに戻らなくなるっていう、、、あのウィルスさ。。
国のガイドラインで、皆のプルプルを守るために、人が集まるような行事の自粛をするように定められてしまったんだ。」
僕「 」
虚無「君が通う大学もそのガイドラインに則って、あらゆるサークル活動や構内行事の中止または延期が指示された。君が楽しみにしていたバンドサークルのライブも、ましては卒業式も、」
僕「本当にもうずっと、そのライブをするためにやってきたんだよ。。皆が集まれるのも、それが本当に最後なんだよ。。。。いくら耳たぶが固くなるからって。。。。」
虚無「すまないっ。。こんな虚無を持って来たくはなかったんだ。。。」
僕「そんなぁ。。勝手に集まってもいけないのかい。。。」
虚無「サークル単位での集会がバレてしまうと、学校からペナルティが科せられるかも知れない。もしもそれで、皆の耳たぶが固くなっては大変なことになる。。。後々に後輩に迷惑がかかるかもしれないんだ。。」
僕「そうか。。無理なのか。。。。」
虚無「うん。。。。。決まってるんだ。。。。。」
僕「そうか。。。。。決まってるのかぁ。。。。。。」
突然の来客。
虚無が持ってきたのは、ドデカい虚無。BIG虚無。
そりゃ、やって来たのが虚無だもん。仕方ないか。
BIG虚無の語感が気になって口してみたら、何度言ってもビッグカツと同じイントネーションになった。そんなものコンビニに置かないでほしい。
はい。
この機を逃してしまうと、もう全員で集まることは出来ないだろう。
僕が3月に抱いていたすべての像は消えてしまった。
ずっと憧れてたあれは何だったんだろう。やっぱり幻だったのか。
このまま、何も出来ないまま、卒業式も出来ないまま3月が終わって、社会人になっていくということらしい。
クラスのアイツや、あの恩師に別れを告げることも出来ないまま終わるってことなのか。
躍動がなくなった3月を過ごして、本当に何の区切りも感じないまま、いつの間にか働き始めているのだろうか。
大サビの直前で終わった歌みたいな、いかんともし難い不燃焼感
3割ぐらいしか白髪にならなかった明日のジョー
「ポ〜ゥ!」とか「アァォッ!」を全然言ってくれないマイケル・ジャクソン
得点圏で現役最終打席。バッティングカウントになった所で代打を出されるバッター
「あのくぼみに邪気を感じるから中止」というNASA司令室の命令で月着陸できなかったアポロ
ゴール直前でUターンし、逆走を始める1番人気の馬
あらゆる人達が各地でそんな気持ちになっているかと思うと、本当にやるせない。。。
世界各地であらゆる種類の虚無が溢れていてるのを感じる。。
ただ、それを受け入れないといけないのか。。。
天災だったのか。。。
最終回の再放送は無い!
無い!!
僕「どうしよう。こんな虚無受け入れられるか分かんないよ。。虚無保険入っとけばよかった。。」
虚無「そんなリスクヘッジしてる人は中々いないよ。。皆、君みたいにショックを受けてるんだ。。」
僕「「皆もそうだから」みたいなのって凄い詭弁っぽくて嫌いだったけど、確かにそうなんだよね。。皆辛たんなのか。。。」
虚無「皆のところにも虚無が届けられてる。。僕は君の虚無だけど、他の虚無たちも大忙しさ。虚無業界がこんなに賑わったのも久しぶりだね。」
僕「まぁ何というか、ただツイてなかったんだね。。。異常空間Z!」
虚無「それが人生だ、とか言うのは簡単だけど、、、受け止めてもらうしかないんだ。」
僕「いつか笑い話に出来るかな?この悲しいのはいつ消えるのかな?」
虚無「分からない。。。けど、大丈夫だから!!とにかく、大丈夫さ!!!!生きてればそれで大丈夫なんだ!!!!!!」
僕「その言葉で押し切ってくれぇ!!!!」
虚無「そろそろ、、いくよ。。。。。」
僕「どーんといこうやぁ!!!とどめをハデにくれぇ!!!!!」
虚無「分かった!!」
虚無「きょぉ〜〜むぅぅ〜〜〜〜!!!」
虚無「きょぉぉ〜〜むうぅぅ〜〜〜〜〜!!!!!」
虚無「波ぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!!」
僕「ぐぁああああああああああああ!!!!!」
ズォォォォォォォォォォォォン。。。。
僕「うっ。。。。」
凄い光だった。。。熱かった。。。。。
僕は、、一体どうなってしまったんだ。。。
ここは、、、どこだ?
「きみぃ?ここでなにやってんだぁ?」
僕「!?」
僕「あっ、あなたは!?!?」
「老子じゃい。」
僕「老子だぁぁぁあ!!!!!!」
次回!「万物、無に帰す」の巻!!
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